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宮崎地方裁判所 昭和56年(行ウ)2号 判決

原告

宮崎市郡浄化槽管理事業協同組合(X)

右代表者代表理事

桑島敏和

右訴訟代理人弁護士

吉良啓

五島良雄

被告

宮崎市長(Y) 長友貞蔵

右訴訟代理人弁護士

殿所哲

右指定代理人

川本功

水元富彦

岩切奈良美

理由

一  請求原因1ないし4の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各不許可処分の適法性について検討する。

1  法七条、九条の各許可の性質

法七条と九条の各許可基準についてみると、まず法九条のし尿浄化槽清掃業については、同条二項一号が客観的な技術上の基準に適合すること、同項二号が欠格事由に該当しないことを規定しているのみであるのに対し、法七条の一般廃棄物処理業については、同条二項三、四号が右法九条と同趣旨を規定しているほか、さらに法七条二項一号が当該市町村による処理の困難性、同項二号が当該市町村の定めた処理計画との適合性をそれぞれ規定しているという違いがある。

これは、一般廃棄物の収集、運搬、処分が、本来市町村の固有の事務であると解される(地方自治法二条九項、同法別表第二、二、(一一))ところから、市町村は、その定めた法六条一項の計画に従つてその区域内における一般廃棄物を処理しなければならないものの、これをすべて市町村自らが直接あるいは委託により行うことが実際上できない場合もあるので、このような場合に一般廃棄物処理業者をして処理させることとし、その業者は市町村固有の事務を代行するものとして規制されるべきものである。したがつて、市町村長は、その営業の許可に関し、市町村の定めた一般廃棄物処理計画に従い、法の目的に照らし、当該市町村の実情をふまえた自律的、専門技術的政策判断の尊重される広範な裁量権を有するものと解される。

これに対し、し尿浄化槽清掃業は、本来それ自体で処理をする機能をもつ浄化槽の内部の清掃等の維持管理にあることから、法はこれを市町村の本来の固有事務とすることなく、ただ専門的知識、経験をもち、必要な器材等を有する者によつて適正に維持管理がされないと、市町村の生活環境の保全、公衆衛生に大きな影響を及ぼすおそれがあるため、一定の許可基準に達した者に限つてこれを許可するものとしたと解される。

ところで被告は、法九条には法七条二項二号のような規定がないものの、法九条の許可申請に対する審査には法七条二項二号と同様の内容の審査が前提となつており、そのことは昭和五三年厚生省令五一号による廃棄物処理法施行規則の改正の経緯からも明らかである旨主張する。

しかし、〔証拠略〕によれば、右改正の理由は、し尿浄化槽清掃業の実態は地域によつてはし尿浄化槽の清掃によつて生ずる汚泥の量が単に付随的なものとみられる程度に止まらず、汲取りし尿量と同程度にもなるところが生じ、右汚泥の処理につき一般廃棄物の処理計画との整合を図る必要が生じたためであることが明らかである。しからば、右改正後は、法九条の許可業者であつても、し尿浄化槽の清掃によつて生じた汚泥を収集、運搬、処分するには、更に法七条の許可を要することになり、一般廃棄物の処理計画との整合性は法七条の許可の際に考慮されるのであるから、法九条の許可に際して右処理計画との整合性を考慮する必要性はさらに少なくなつたものとみることができ、これは、通常し尿浄化槽の清掃業務の主体が清掃そのものにあるのか、あるいは清掃によつて生じた汚泥の収集、運搬、処分にあるのかとか、汚泥の量の多寡等にかかわりなくそのように解されるのであり、このことは、むしろ、法九条の許可申請に対する審査にあたつては、法七条二項二号と同様の内容について審査することを前提とはしていないことを裏づけるのもであると解される。

以上によると、法七条、九条のいずれの場合も、許可の要件を充足している限り、必ず許可しなければならないものではあるが、法七条の場合は、同条二項一、二号に相当幅の広い要件を定めており、これに該当するか否かの判断について前述のような広範な裁量権が認められるから、その限りで同条の許可は自由裁量行為であると解すべきである。これに対し、法九条の場合は、法七条二項一、二号のような規定がなく、主として技術的観点からの要件を定めるにとどまるものであるから、同条の許可は覇束裁量行為であるといわざるを得ない。

2  法七条の不許可処分の適法性について

(一)  〔証拠略〕によれば、宮崎市におけるし尿汲取対象人口は、昭和五六年度が一二万三三九〇であつて、同六五年度になると一〇万三六八〇程度に減少すると推計されること、これに対して昭和五六年度におけるし尿汲取全量は七万七八一七キロリツトルの実績に対し、同六五年度もほぼ同様であるが、その間の推移はU字型をたどるものと推計されること、浄化槽の設置基数の推移は、昭和五六年度の実績が二万〇五〇〇であるのに対し、同六五年度は一万九五〇〇程度と推計されること、また公共下水道対象人口の昭和五六年度実績は二万七四〇〇であるのに対し、同六五年度は一〇万三〇〇〇と推計されることが認められ、これによれば、し尿汲取人口が今後急速に減少する一方、浄化槽基数がやや上昇し、浄化槽対象人口も昭和五九年頃をピークとして同六五年には同五六年度の実績を下回るものとなり、それは公共下水道対象人口の急速な上昇に伴う結果とみられる。

(二)  ところで、〔証拠略〕によれば、宮崎市においては、昭和三九年ころまでは法七条の業務を三業者が行つており、いずれも法九条の業務を併有していたが、それぞれの競争激化に伴い、種々の弊害が生じ、一方、公共下水道事業の進展によつて業者乱立による共倒れも予測されたこと、宮崎市は、右三業者に行政指導を加えることとし、同三業者も昭和三九年一〇月それぞれ解散手続をとると同時に各業者が出資した前記公社を設立し(企業合同)、その出資者の一員として宮崎市も参画した。法七条業務については直ちに右公社に許可を与え、当該業務を遂行させ、昭和四三年頃より同業務を委託業務に切替え、その後の前記施行規則改正後、すでに法九条の許可を受けていた開発センターに法七条の許可を与えたこと、そして右公社に対しては、資本参加をすることによつて十分な行政指導ができるようにし、また開発センターに対しては、これを一社に絞ることによつて前述のごとき業務遂行上の不都合が出ないよう行政指導の徹底が図られることとし、宮崎市が右公社並びに開発センターと密接な連携をとりながら汲み取りし尿及び浄化槽の汚泥を宮崎市のし尿処理施設である市衛生処理センター(昭和五六年末現在処理能力一日四〇〇キロリツトル)において、処理をしていることの各事実が認められる。

(三)  右(一)、(二)の事実にかんがみると、被告が請求原因3記載の理由をもつて原告の法七条許可申請に対し不許可処分をしたことは一応首肯することができ、この裁量権の行使に特に濫用があるものとされる事情、とくに原告主張のように、既存業者の保護、育成のみを考慮して原告の申請を不許可にしたとの事情も認めることはできない。

3  法九条の不許可処分の適法性について

し尿浄化槽清掃業の許可は、前記1のとおり、覊束裁量行為と解すべきであるから、原告が法九条二項の各要件を充足する限り、被告は必ず許可を与えなければならない。

被告は、法七条の許可を受けていない原告がし尿浄化槽の清掃を行うためにはし尿浄化槽から引き抜かれた汚泥を事実上自ら合法的に収集、運搬および処分をすることができないので、その引き抜かれた汚泥を清掃した場所に漫然と放置する結果となり、そのことは直ちに法九条二項二号の準用による法七条二項四号ハに該当することになるので不許可処分にしたと主張し、この点を除く他の要件が欠けるとの主張もないうえ、これを認めうる証拠もない。(技術上の基準に適合していることについては被告も認めるところである。)

しかしながら、し尿浄化槽から引き抜いた汚泥を自ら収集、運搬、処分することができないからといつて直ちにこれを放置するものとはいえず、他の法九条許可業者に委託する等の措置による解決も当然考えうるところ、本件全証拠によるも、本件処分の前後を通じ、被告が原告に対し、し尿浄化槽の清掃から生ずる汚泥の処理方法につき適切な方策を有するか否かを尋ねる等法九条二項二号(七条二項四号ハ)の要件審査をした形跡は全く窺えず、〔証拠略〕からすると、原告においては、右汚泥の収集、運搬、処分を他の法七条の許可業者に委託する方策を採ることも充分予測されるのであつて、これらのことからも、原告には右法七条二項四号ハに該当する事由があるとの被告の主張は理由がないことが明らかである。

してみると、本件法九条の不許可処分は、同条に反した違法な処分といわざるをえない。

三  以上によれば、原告の被告に対する各請求は、し尿浄化槽清掃業不許可処分の取消しを求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 伊藤正高 若林辰繁)

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